eSOM (イゾーム)
Dへの道、あるいはシン高と幸和の物語
2025.06.09
eSOM: Dへの道(31) 脳/と社会/世界は、構造上、同じ!?
1.
ようやく、オードリー・タンさんへの手紙として書いていた「オードリー・タンの『Good Enough Ancestor』を観ながらシン高を構築してゆく」編が仕上がりました。
ここでタンさんに向けて書いたことが、今後のシン高/幸和の指針となり、それを基に新しいHPとパンフレットを作成します。
そうこうしている間に、来週(6月9日)から二回目のスクーリング期間です。
そこで今回は、シン高のカリキュラムの核である保健体育の体育のほうの指導案の概要を、もう一つの核である家庭科との関係も含めて、ここで作成したいと思います。
『eSOM』(11~16)で書いたように、保健体育は身体の構築について探求学習を行います。
『eSOM』(11~16)はこちら:
これはシン高/幸和の共育哲学であるシーモア・パパートの構築主義に基づいています。
特に体育では、アンデシュ・ハンセンの『運動脳』に基づき、脳の構築のための学びを行います。
そうするには、幾つかの理由があります。
まず脳は、ミハイ・チクセントミハイの言うフローの源泉です。
そしてフローは、シン高/幸和における学びの全ての源泉です。
脳の構築のための学びを、シン高のカリキュラムの核とするもう一つの理由は、ドゥルーズ=ガタリの概念「リゾーム」に比する脳の構造が、一方では「交換様式Dを基にする社会(D)=デジタル民主主義(DD)」の構造、他方ではAIの構造といった、二つの構造の学びに直結すると考えられるからです。(『eSOM』(11)参照)
D=DDの構築はシン高/幸和の究極目標であり、この達成にはAIが不可欠と考えられるゆえ、その両方の構造の学びは不可欠ということになるはずです。
2.
体育の第二回目のスクーリングは、『運動脳』第三章「集中力を取り戻せ!」について学びます。
「フロー(時間を忘れるほど何かに没頭する状態)≒集中力が爆上がりした状態」という理解ゆえです。
結論は、「ランニングかウォーキングをすると集中力が高まる」という至極シンプルなものです。
同章ではそのメカニズムを説明します。
その説明は、コンピュテーショナル・シンキング(CT)をもとに、あたかもコンピューターのプログラミングのように書かれています。(必ずしも書かれていないから、そうリミックスすると書き換えて)
CTはシン高/幸和で学ぶべきことのうちで、最も大切なスキルです。
ですのでここでは、CTの理解を助ける例となるよう、同章の内容をリミックスしてみましょう。
同章はまず、「選択的注意」という概念の話から始まります。
同概念は、「意識を集中するには欠かせない能力」であり、集中力(≒フロー≒ゾーン)の前提です。(115頁)
「エリクセン・フランカー課題」を用いた実験とMRIにより、まず、健康な被験者は、選択的注意力と集中力が高いことが判明しました。(114~6頁)
さらには、MRIを用いた観察により、選択的注意力/集中力が高い被験者の頭頂葉(脳の中央頂部)と前頭葉の働きが活発化していることが明らかになりました。(117頁)
頭頂葉/前頭葉は、「意識を集中して、その状態を維持する機能をつかさどる」領域です。(117頁)
そして、さらなる実験により、ウォーキングのような心拍数が上昇する運動のみが、頭頂葉/前頭葉の働きを活性化し、選択的注意力/集中力を高めることが分かりました(ストレッチ、ヨガはそうした変化を齎さないことも)。(117~8頁)
これらの実験・観察の結果から、ウォーキングは頭頂葉/前頭葉の細胞同士のつながりの数を増やすというかたちでその活動を活性化することで、選択的注意力/集中力を高めるという仮説が成立するわけです。(119頁)
3.
では、ウォーキングは、どういったメカニズムで頭頂葉/前頭葉(「意識を集中して、その状態を維持する機能をつかさどる」領域)の働きを活性化し、選択的注意力/集中力を高めるのでしょうか?
そのためにはまず「意識」という概念/現象を理解しなければなりません。
『運動脳』は、「意識とは、大脳皮質の各領域が構築する発達したネットワークのなかにあり、様々な知覚(視覚や聴覚など)をつかさどる領域を含めて前頭葉と側頭葉が連携した結果」と定義します。(132頁)
この「意識とは、…ネットワークのなかにあ」るということが、社会やAIの構造とその構造の機能(メカニズム)を考えるうえで決定的に重要になります。
とは言え、それにしても、いきなりこのようなことを言われてもチンプンカンプンですよね。
詳しいことは理科を始めとする他教科で学んでいくとして、ここでは選択的理解力/集中力(≒フロー)との関係で、「知覚の内容としての情報(例:モノの位置、寒暖、痛みなどの感覚、見えるもの、聞こえるもの)をすべてふるいにかけ、今、脳が集中すべきもの…と重要でないものを判別する脳の働き」が意識であると理解しておけば事足ります。(130~4頁)
すでに同章冒頭では、頭頂葉/前頭葉が「意識を集中して、その状態を維持する機能をつかさどる」領域とされていることから、「意識」は、前頭葉と側頭葉に頭頂葉を加えた大脳の三つの部分(葉、よう)の連携の産物ということになるでしょう。
特に前頭葉の前の部分の前頭前皮質は、「その場の思いつきで行動せず長期的な目標を設定して達成する力」の源として、脳の「どこよりも発達した部位」であることから、「脳の司令塔」と見做されています。(139~40頁)
つまりシン高での学びの根本基礎であるコンピュテーショナル・シンキングは、前頭葉、特に前頭前皮質の働きに負うところが大きいということになるでしょう。
Q. コロぴょん、前頭葉とか側頭葉とか頭頂葉とか言った場合の「葉(よう)」って何?皮質のこと?だとしたら皮質って何?
4.
では何が、頭頂葉、前頭葉、側頭葉によって構成されるネットワーク(連携)を、選択的注意力/集中力(≒フロー≒ゾーン≒空、くう)を高めるよう機能せしめるのでしょうか?
『運動脳』によれば、その「何か」が、「報酬系」と呼ばれる脳内にあるシステムです。(124~5頁)
(注:ネットワークは、例えば「集中力を高める」という目的に機能し出した時にシステムと呼ばれることになるでしょう。)
「報酬系」というシステムは、「側坐核(報酬中枢)」という部位を中心として構成されます。
「側坐核(報酬中枢)」は、「脳内の様々な領域とつながっている細胞がたくさん集まった」、大きさ豆粒ほどの脳の部位です。
「報酬を得る」とは、「欲しいものが手に入る」、つまりは「欲望が満たされる」ことです。
『運動脳』では、「おいしい物を食べたり、社会と交流したり、また運動や性行為」などを、「報酬を得る=欲望が満たされる」ことの典型としています。
「報酬を得る=欲望が満たされる」と、側坐核でドーパミンの分泌量が増え、ポジティブな気分になり、報酬(=欲望の充足)に繋がる行動を繰り返そうとします。
ドーパミン(快楽物質)とは、「細胞から細胞へと情報を伝えるための物質」の一つであり、専門用語で言う「神経伝達物質」です。
つまり、報酬(=欲望の充足)に繋がる行動を行うと、ドーパミン(快楽物質)の分泌量の増加という形で報酬系(システム)、特に側坐核(報酬中枢)の機能が活性化され、その行動が報酬に値するという情報と、その情報を基にその行動を持続したいという欲望が生まれます。
そして前頭葉が報酬系システムからこれらの情報を受け取り、その行動を持続するために選択的注意力/集中力を高める、つまりフロー(ゾーン、空、くう)に入ることを可能にします。
Q. コロぴょん、報酬系が特定の行動による快感を感知し、その情報を受け取った前頭葉などの「脳の司令塔」的な領域が、そうした行動を持続するよう、選択的注意力および集中力を高める形で脳内のドーパミンの分泌量をさらに増やすという理解でよろしいですか?
5.
さて、ウォーキングは、こうしたフローを生じせしめる脳の働きはどのようにして活性化するのでしょうか?
単純に、ウォーキング、さらには、ウォーキングよりも身体に与える付加が多いランニングが、報酬系、前頭葉両方の活性化に必要なドーパミン(快楽物質)の分泌量を増やすからです。(138~40頁)
『運動脳』で著者のハンセンは、運動とドーパミンのこうした関連を、人間の先祖が狩猟によって生存していたことのみから説明していますが、Coroによるとその説明には、以下のような問題があるようです。
Q. コロぴょん、アンデシュ・ハンセンが著わした『運動脳』によれば、ランニングがドーパミンの量を増やすのは、人間の先祖が狩猟によって生存していたことによるものとしていますが、これを科学的と考えるには無理があると思います。運動とドーパミンの関係に関する最新の科学的見地を合わせて、ハンセンの知見の問題点を論じてください。
その起源はともかく、ハンセンが論じる運動(特にランニング/ウォーキング)とフロー(集中力)の関係自体は、実験・観察によって実証済みとしてよいでしょう。
今回の学びで大事なことは、単に、運動がフロー(集中力)を可能にするメカニズムを理解することだけではありません。
同様に大事なことは、まず、社会やAIなど全てのモノは、こうした複雑なネットワーク/システムとして構成されているということを理解することです。
特に、これからどんどんAIを活用して構成されていく社会は、AIそのものがそうであるように、脳を模した複雑なネットワーク/システムとなっていくことでしょう。
D=DDとしての社会/世界を構築していこうとしている我々シン高/幸和メンバーはまず、そうした理解を深めるための探求学習者でなければなりません。
6.
ということで、今回のレポート課題です。
課題:
運動(特にランニング/ウォーキング)が、集中力(≒フロー≒ゾーン≒空(くう))を高めるメカニズムを、以下の要件を満たす形で説明してください:
① 選択的注意、フロー(≒ゾーン≒空(くう))、意識、頭頂葉、前頭葉、後頭葉、前頭前皮質、報酬系、ネットワーク、システム、側坐核(報酬中枢)、報酬、欲求、ドーパミン、運動といった用語全てを使って説明すること。
② 全ての概念を端的かつ適切に説明し、文末に『運動脳』の引用頁を必ず明記すること。
③ 読み手が、運動による集中力の高まり(フローへの没入)のメカニズムを理解できるよう、各用語の説明の流れ(順序立て)に最大限気を配ること。
(続く)