eSOM (イゾーム)
Dへの道、あるいはシン高と幸和の物語
2025.05.09
『Dへの道、あるいは幸和物語』(5):「安浦コモンズ」の構築と、シン高にとっての「家庭科」の大切さ
1.
「幸和」の究極目標は「D」の構築です。
そのために、「幸和」を構成する各組織は、自らを「A」(「D」の雛型、モデル、ないしマイクロコスモ)として構築しようとします。
勿論、シン高もです。
ただ、シン高の場合はそれに加え、究極目標達成に向けての特別なミッションがあります。
それは、シン高安浦キャンパスを中心に、安浦を「A」にするというミッションです。
「A」としての安浦を「安浦コモンズ」と呼ぶことにします。
シン高は、生徒からファシリテーターまでの全てのメンバーが、安浦を「安浦コモンズ=A」として構築しようとします(安浦キャンパスはその拠点)。
それがシン高における全ての学びの出発点(根本基礎)です。
2.
安浦を「A=安浦コモンズ」にするというのなら、普通ならまずは、「幸和」の名誉学園長である柄谷行人さんの交換様式論を理解するのが道理と考えるでしょう。
しかし、シーモア・パパートさんの構築主義を共育の真髄とするシン高は、まずは身体を動かして「安浦コモンズ」を作り始めます。
その行動を通して「A」、さらには交換様式論そのものを理解してゆきます。
それこそが語の真の意味での探究学習であり、それを行うことが「バガボンドになること」です。
3.
とは言え、「A」について何も知らずにそれを構築することは出来ませんよね。
そこで役に立つのが、東京書籍の家庭科の教科書です。
シン高では『家庭基礎』を使用します。
勿論、『家庭基礎』は「「A」の教科書」ではありません。
「交換様式B」ないし「交換様式C」に適合する人、家族、社会の構築を意図したテキストと考えるのが妥当でしょう。
しかし、テキストには必ず「剰余」、「余白」があると教えるのは、柄谷さんの盟友であるジャック・デリダの「脱構築」でした。
「脱構築」における「剰余」、「余白」ついてはこちら:
私は学者最後の論文で、「D」の構築に向けて「A」を顕在化させる「脱構築」(「正義の脱構築」)を「リミックス」と名付けました。
シン高ファシリテーターは、『家庭基礎』をリミックスすることで、この「BないしCのための教科書」を、「安浦コモンズ=A」構築の「ガイドライン」にします。
4.
『家庭基礎』を用いた場合のスクーリングは計4回行われます。
各スクーリングごとに課題(レポート作成や作品制作)が与えられます。
生徒は決められた期限までにレポートや作品を提出し、ファシリテーターがそれを添削・寸評します。
シン高の必修科目「家庭基礎」のスクーリングのスケジュールは以下の通りです:
(第一回スクーリング)「バガボンドとしての私」への道
「第1章 生涯を見通す」
「第2章 人生をつくる」
「第3章 子どもと共に育つ」
「第4章 超高齢化社会を共に生きる」
「第5章 共に生き、共に支える」
「第9章 経済生活を営む」
「第10章 持続可能な生活を営む」
前野隆司、前野マドカ『ウェルビーイング』からの抜粋
「第11章 これからの生活を創造する」
(第二回スクーリング)「バガボンドとしての私」の構築(1):衣
「第6章 食生活をつくる」
(第三回スクーリング)「バガボンドとしての私」の構築(2):食
「第7章 衣生活をつくる」
(第四回スクーリング)「バガボンドとしての私」の構築(3):住
「第8章 住生活をつくる」
こうしたスクーリングのスケジュールが、必修科目「家庭基礎」の構成そのものです。
スクーリング第一回目の「「バガボンドとしての私」への道」では、こうした構成・内容の家庭科の授業が、いかなる意味で「安浦コモンズ=「A」」構築の「ガイドライン」となるのかを理解します。
そこではまず、自分の「フロー(時間を忘れて没頭する状態)」と、SDGsの169のターゲット(見返し2、202)の交差点が、生涯に渡っての自分や自分の周りの人間のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)(『ウェルビーイング』からの抜粋)に繋がることを学びます。
「好きなこと(フロー)」を仕事に出来れば、「精神的に良好な状態」を得ることが出来、それは「身体的に良好な状態」につながります。
では、「フロー」とSDGsの交差点を目指すことが、なぜ「社会的に良好な状態」に繋がるのでしょうか?
答えはESG投資(Environment Social Governance Investing)にあります。(『家庭基礎』、199、204頁)
簡単に言えば、AIによって多くの仕事が消えてゆくなか、SDGs関連業種には優先的にお金が流入し、AIを駆使しながら成長していくからです。
なぜそうなるのかについてや、これが必ずしも良いことばかりでないことは、数年以内に設立される「幸和」の大学(仮称:「幸和大学」)で学びます。
兎にも角にもシン高生は、そうした「裏の事情がある」ということを頭の片隅におきながら、自分と自分の家族をはじめ、自分の周りの人のウェルビーイングのために、自分の「フロー」とSDGsの交差点にある仕事を通して、「SDGsが実現された社会/世界」である「D」の構築を目指す「バガボンド/竜馬」となるよう努めます。
5.
「家庭基礎」のスクーリング第一回に関するここまでの内容が、いかなる意味で「安浦コモンズ=「A」」構築の「ガイドライン」となるのでしょうか?
スクーリング第一回目で生徒はまず、「D=SDGsが達成された世界=ウェルビーイング社会=ソサエティ5.0」の構築に、自分の「フロー」と「地球規模の課題(SDGs)」の交差点にある仕事を通して貢献することが、ESG投資を介して、自分や自分の身近な人のウェルビーイングにつながることを学びます。
となると、まずはSDGs(地球規模の課題)の169個のターゲットを学ばなければなりません。
しかし、「それらをまずは丸暗記」では、これまで日本で行われてきた大方の教育と変わらなくなってしまいます。
構築主義の立場を取るシン高は、まずは「書を捨てて町へ出」て(寺山修司)、安浦が抱える課題を発見し、それを「コンピュテーショナル・シンキング」を駆使して解決しようとする行動を通して、「なぜ安浦の〇〇の課題は「地球規模の課題」なのか」を学びます。
「フロー」と並んで、シン高における学びの根本基礎として在学中に習得しなければならない「コンピュテーショナル・シンキング」についてはこちら:
スクーリング第一回の必読文献である「第3章 子どもと共に育つ」、「第4章 超高齢化社会を共に生きる」、「第5章 共に生き、共に支える」、「第9章 経済生活を営む」、「第10章 持続可能な生活を営む」がSDGs(地球規模の課題)に直接該当します。
そしてそこに提示されている課題は全て、安浦に見出されるでしょう。
それらの課題をAIを始めとするITを駆使して解決する行動が、シン高の学びの原点です。
生徒全員が安浦に赴いて課題を発見してまわるのが物理的に困難なようなら、まずは担当ファシリテーターが課題をリストアップし、それを出発点にすることなども一つの手でしょう。
(続く)