eSOM (イゾーム)
Dへの道、あるいはシン高と幸和の物語
2025.05.09
(小説)Xへの道、あるいはシン高物語(30):『東京喰種トーキョーグール』とガンダム・サーガ
目次:
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楽しく愉快なレゴ・シリアス・プレイ(LSP)
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「僕らの世界史」とガンダム・サーガ(物語譚)
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金融(商品への投資)をエンタメに!
1.楽しく愉快なレゴ・シリアス・プレイ(LSP)
14歳の君へ、そしてシン高のみんなへ
2月4日(火)にシン高向洋キャンパスの竣工式が催された。
8日(土)にはその新キャンパスでオープンキャンパスが開催され、100名を越える人が訪れた。
僕も参加し、入学を考えている中高生やそのご家族の方々とお話させていただいた。
みんなと話すのは楽しかった。
その「楽しさ」とは、大杉栄が言うところの「愉快さ」だ。
シン高を含む「幸和グループ(以後、「幸和」)」の活動において最も大事なことなので、再度ここに引用する:
負けることはよく負ける。しかし幾度負けてもその喧嘩の間に感じた愉快さは忘 れることができない。意地をはってみた愉快さだ。自分の力を試してみた愉快さだ。仲間の間の本当の仲間らしい感情の発露をみた愉快さだ。いろんな世間の奴等の敵と味方とがはっきりして世間が見えてくる愉快さだ。そしてまた、そういったいろんな愉快さ の上に、自分等の将来、社会の将来がだんだんとほの見えてくる愉快さだ。自分等の人格の向上するのを見る愉快さだ。
「労働運動理論家賀川豊彦・続」(『労働運動』一次三号(一九二〇年一月)。のち 『正義を求める心』に所収。第六巻) (167-169)(小説18、24参照)
では、オープンキャンパスに訪れてくれた人と話して、何がそんなに楽しかった(愉快だった)のか?
それは大杉が言うところの「自分等の将来、社会の将来がだんだんとほの見えてくる愉快さ」だ。
具体的に話そう。
オープンキャンパスでは、レゴシリアスプレイ(LSP)の体験会が開催された。
LSPは、シン高における教育のあらゆる場面に採用される。
シン高の教育において最も大事なLSPについてはこちら:
↓
体験会の様子を見ていて驚いた。
と同時に、シン高の方向性の正しさが再確認出来た。
シン高は、各々が「内に秘めた思い」を全ての学びの出発点とする。
一方、通常の教育(特に日本の)は、そうした「思い」を脇に置かせ(あるいは押し殺させ)、社会が必要としているとされる知識やスキルを一方的に学ばせるのが今だに主流だ。
さらに言えば、そこで想定されている「社会」が、全く時代に追いついていないときているからいっそう質が悪い。
一応、世界の教育哲学・政策の比較研究を専門とする研究者を数十年やってきた立場から言わせてもらえれば。
一方、シン高では、「内に秘めた思い」を出発点とし、まずそこからファシリテーター(巷で言う「先生」)と一緒に自分の人生を設計し、そして最終的に、その人生設計に必要な学びのロードマップ(カリキュラム)を、これもファシリテーターと一緒に構築する(シン高では「先生」という言葉を使わない)。
LSPは、この「内に秘めた思い」を言葉にし、他者に伝えるのに最良の方法だ。
体験会で身体の外に出てきた参加者の「内に秘めた思い」はどれも、「もしかして天才?」とお世辞抜きで思ってしまうほど凄かった。
これは体験会を行ってくれた、LSP認定ファシリテーターの資格を持つ日上雅義さん(シン高ファシリテーター)も全くの同意見だった。
そしてこの、個々人と社会全体両方にとっての「宝石」ないし「宝」の芽を摘む教育が今だに主流を占めていることが、日本が世界史の後方に追いやられて久しい最大の原因であると改めて思った。
ともかく、LSP体験会の会場で、未来のシン高生から次のことを学んだ。
まず、人間が「内に秘めた思い」が「宝」、「宝石」だということ。
そして教育とは、どうすればその「宝」が、生涯を通じて本人のウェルビーイング(身体的、社会的、精神的に良好な状態)に繋がるかを一緒に考える―ファシリテートする―ことであるということ。
こんなふうに「自分等[シン高]の将来、社会の将来がだんだんとほの見えて」きたことが嬉しかった。
嬉しいと、楽しく愉快な気分になるものだ。
ちなみにシン高が「先生」という言葉を使わないのは、人間にとって最も大事なことを、通常「先生」と呼ばれる人間が、通常「生徒」と呼ばれる人間から学ぶことのほうが多いという、この日のような実体験を基にしている。
人間は大概、歳を重ねるにつれ、「人間にとって最も大事なこと」を忘れていくものだ(そのことを幼稚園の園長を数年やって、強く感じるようになった)。
それを思い出させてくれるのが、通常「生徒」や「園児」と言われる人々だ。
LSPの体験会である参加者が、短時間で驚くべき「機械」をレゴで作った。
聞けば、シン高でそうした機械を作りたいという(LSPでは、自分の作品を指差しながらストーリーを語ることが、最も大切なことになる)。
その作品とストーリーに関し別な参加者が、非常に鋭い質問を投げかけた。
こちらはシン高で、メタバースの可能性を探求したいという。
さらに別な中学2年生の参加者も、すでに4年ほど「メタバースの住人」であるという。
以前からメタバースはシン高の活動に取り入れたいと思っていたが、なかなかいいアイデアが浮かばず、試行錯誤していた。
しかしLSP体験会でのこの出会いから、「メタバースのような新しいテクノロジーに関しては、生徒の意見を存分に取り入れ、生徒主導で教育活動内容を作っていくのが一番」という「シン高の将来」が見えてきて、これまた楽しく愉快な気分になった。
生徒主導で活動内容を決めていくのは、テクノロジーに関することだけではない。
『(小説)Xへの道、あるいはシン高物語(29):バガボンド、べらぼう、攻殻機動隊、そしてダンダダン』で書いたようにシン高は、漫画、アニメ、そしてゲーム(eSports)といった、シン高生にとって身近なものを最大限に活用し、そこから必要なことを学んでいく。
「身近なもの」ということだけが理由ではない。
中学の頃から「ややこしい作品」(例:ジャン・リュック・ゴダールの映画)も含め映画、文学に親しんできた僕は、近年においては、昔なら小説を書いたり映画を作ったりしていたであろう人のうちでも、最も豊かな才能のある人々が近年では、漫画、アニメ、ゲームといったエンタメ作品に流れていると思っている。
ネトフリの世界的な隆盛により、ドラマにも。
(勿論、映画や小説もまだまだ捨てたものではない、特に新興国発の作品は)。
とにかくややこしいのから親しみやすいのまで、そうした芸術作品を通して大切なことを学んでいく。
それがシン高だ。
そんなわけで、とりあえず向洋キャンパスの図書室には、「小説29」で書いた理由で『ONE PIECE』、「小説19」で書いた理由で『ヴィンランド・サガ』、そしてこれも「小説29」で書いたように、僕にとっての(つまりはシン高にとっての)バイブルである『バガボンド』をそれぞれ全巻取り揃えた。
それらの漫画が並ぶ本棚の前で、ある入学予定者と話した。
聞けば彼は以前説明会で、『東京喰種トーキョーグール(略称:TG)』をはじめ、幾つかの漫画を図書館に入れて欲しいと要望したという。
早速家に戻りネトフリで『TG』のアニメ版を観た。
素晴らしい。
そのうち詳しく述べるように、シン高の活動において重要な役割を担うことになる、村上春樹の『1Q84』や『騎士団長殺し』に通じるものがある。
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早速、『TG』の単行本を図書館に配架しよう。
この『TG』を巡る一連のやり取りから、本の配架に関していいアイデアが浮かんだ。
シン高には、シン高生が『Xへの道(、あるいはシン高物語)』ゆくうえで役立つ本のみを置く。
逆に言えば、「Xへの道」をゆくうえで役立つと、僕をはじめファシリテーターが判断しさえすれば、予算とスペースが許す限り配架する。
今回の『TG』のように。
そこで今後は、学校に入れて欲しい本がある場合は、「それがどのように「Xへの道をゆく」ことに役立つか」について推薦文を提出し、その文を読んで僕らファシリテーターが納得したら入れるようにしようかと思う。
本屋でよくある「店員推薦」のポップアップ広告のような推薦文を。
それ自体が、シン高生全員が目指すべきこととしての「X」とは何か、そこに個々の生徒の「フロー(好きなこと、没頭出来ること)」がどう関係してくるかの探求学習(=自分で試行錯誤しながら学ぶこと)だ。
そうして、「フローを導火線として、自発的に必要なことを学び続ける」という、シン高が最も育んでいきたい能力・資質を培っていく。
3. 「僕らの世界史」とガンダム・サーガ(物語譚)
聞くところによると、上で最初にふれた二人のLSP参加者はいずれも、大の機動戦士ガンダム好きだという。
中学一年の時に初めてファーストガンダムを観て以来、このアニメが描く世界観は、僕のものの見方、考え方に多大な影響を及ぼし、今に至る。
とはいえ僕は、ファーストガンダム以降はほとんど観ていない。
そこで早速、ネトフリで観れる映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(2021年)を観、ファーストガンダムを彷彿させるストーリーの奥行の深さに感銘した。
その流れで、嘗て一度だけ観たことのある『機動戦士Z(ゼータ)ガンダム』を半分ほど一挙に観、今、世界のあちこちで起こっている、あるいは起こりそうな現実の紛争や戦争を生きなければ人間と重なるところが多々あると強く感じた。(ちなみにファーストガンダムは映画三部作を含め何十回観たか分からない)。
そこであることを思い出した。
大学で教えていた最後の年の秋学期、『Xへの道、あるいはシン高物語』の「オリジナル」と言ってもいい、コーネル大学歴史学科名誉教授ウォルター・ラフェーバー先生が著わした『日米の衝突:ペリーから真珠湾、そして戦後』をもとに、アジア・太平洋史の授業を教えていた。
「ラフェーバー先生の世界史」と現在の関係について説いた「小説22」はこちら:
↓
その授業を、なんと、レーガン政権下の『スターウォーズ計画』以来、米国の実権を握る軍産複合体の一角を担う軍事企業の御曹司が受講していた(誰でも知ってる世界的な企業ですが、個人情報に関わるので企業名は伏せておきます)。
その御曹司は、「父の会社は米国と中国の両方に武器を売っていて、つい最近も政府幹部との商談のために中国に行ってきたばかりだが、中国高官の軍拡熱には驚かされるばかりだ、と言っていた(2017年当時)」など、ガンダムの世界さながらの話を教えてくれた。
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僕の授業はいつも、講義の内容とそれに関連する課題図書に関係するトピック(問い)を生徒自ら自由に設定し、それについて書いた小論文(レポート)で成績が決定するというスタイルだった(これが基本そのままシン高のスタイルになる)。
この御曹司が選択したのは、ラフェーバー先生の『日米の衝突』における世界史と、ガンダム・シリーズ全体の壮大なストーリーの共通点を論ずるというものだった。
僕はシリーズ全体のストーリーを知らなかったので、彼は事前に論文の要点(アブストラクト)を僕に提出した(これは全生徒やらなければならなかった)。
アブストラクトの時点で、文章も含めとても洗練された出来だったので、執筆許可を出した。
そうして提出された論文は、20年近くに渡って教えた何千人という学生の論文の中で、たった二つだけが獲得した「特A(AA)」論文の一つになった。
『Zガンダム』を一挙に半分観ているうちに、そんなことを思い出した。
そして今朝起きていきなりあるアイデアが降ってきた。
「AA」論文を書いた御曹司を真似て、ガンダム・サーガやその他、シン高のみんなが教えてくれるエンタメ作品をリミックスしながら、一級品のエンタメ作品のストーリーとなるよう、「東軍」、「西軍」、「トランプ陣営」の三つ巴の抗争を柱とした、「僕らの世界史」として『Xへの道、あるいはシン高物語』を描いていこうというアイデアが。
4. 金融(商品への投資)をエンタメに!
そんな、ガンダム・サーガ(物語譚)さながらの、一級品のエンタメ作品として描いていく「シン高みんなのストーリー」としての「僕らの世界史」において、「三つ巴の抗争」と並ぶもう一つの柱が「金融」だ。
オープンキャンパスの最後、現在、中学三年生のある参加者と長いこと話をした。
彼は今すぐにでも働き始め、稼いだお金で投資を始めたいという。
特に個別株と仮想通貨に。
それを聞いて、すでにLSPと漫画とアニメの話でテンションがMAX付近まで到達していた僕のテンションは、完全にレッドゾーンに入ってしまった。
おかげで翌日の日曜日は終日、虚脱状態となり、布団の中で延々と『閃光のハサウェイ』と『Zガンダム』を観て過ごすほどだった。
それほど金融(商品への投資)の話は、長いこと眠っていた僕のフロー(我を忘れて没頭出来る状態)」を呼び起こした。
学者としての僕は、教育哲学・政策を中心とする社会思想史以外に、もう一つの専門分野を持つ。
それが何を隠そう金融(資本)を中心とする経済理論および世界経済史だった。
この二つの専門分野は密接に繋がっている。
「東軍」、「西軍」、「第三勢力(現在で言えば「トランプ陣営」)」の三つ巴の抗争の「狂言回し(例:『攻殻機動隊』の笑い男)」のような存在が金融(資本)と考えれば、「当たらずも遠からず」といったところだろう。
このことは、国連およびSDGsの理論的指導者であるコロンビア大学のジェフリー・サックス教授が長年批判的に指摘し続ける、ウィール街と軍産複合体(サックス教授が言うところの「戦争機械」)とネオコンの密接な関係からも、ある程度の察しがつくはずだ。
2月8日(土)のオープン・キャンパスの最後に、長いこと話に付き合ってくれたこの投資家志望の彼が、僕が『Xへの道』を描き続け、みんなでその道をゆくうえで最も避けては通れないものとしての金融(資本)を思い起こさせてくれた。
まさに、オープンキャンパスで話した全員が僕に感じさせてくれた「自分等の将来、社会の将来がだんだんとほの見えてくる愉快さ」だ。
また、これこそが、シン高の名誉校長である柄谷(行人)さんが唱える「交換様式A/D(見返りの関係にならずに交換するパターン)」だ。
金融(商品への投資)の話はややこしい。
特に最近は、フィンテックやら、ブロックチェーンやら、AIの導入やらで、金融の世界は一段とややこしくなっている。
しかしややこしければややこしいほど、面白くなるということもある。
『攻殻機動隊』の原作者・士郎正宗氏が、中学の頃から『日経サイエンス』を愛読し、そうして蓄積した知識を基に、このサイバーパンク・アニメの金字塔の原作を描いたように(注釈を沢山つけて)。
僕も、世界史の現在との関係における、金融資本の最近の動向を注視しながら、長年に渡って蓄積した経済(学)の知識を駆使し、最高のエンタメ作品として『Xの道、あるいはシン高物語』を描いていく。
シン高のみんなと一緒に。
(続く)